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大阪高等裁判所 平成10年(行コ)28号 判決 1999年12月10日

控訴人

善村眞智子

右訴訟代理人弁護士

国府泰道

被控訴人

東大阪税務署長 元野俊明

右指定代理人

関述之

山本弘

松田稔

石田嘉男

主文

一  本件控訴を棄却する

二  訴訟費用は、控訴人の負担とする。

事実

第一申立

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人が平成六年二月四日付けで控訴人に対してした控訴人の平成四年分の所得税にかかる重加算税賦課決定処分(但し、無申告加算税相当部分を除く。)を取り消す。

第二主張

一  二に当審における主張を付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決七頁二行目「借用証、領収証等」を「乙六ないし九号証」と改める。

二  控訴人の当審における補充主張

控訴人は、平井を通して、松井に本件税金の申告を依頼するに当たり、松井に二八〇〇万円を支払うこととした。控訴人は、松井に対し、平成四年一二月一八日六〇〇〇万円の現金を振り込み、さらに同月二一日二〇〇〇万円を保証小切手で支払った(甲三五の2)。本件長期譲渡所得に対する分離課税額は三一三六万円であるところ、右二八〇〇万円はほぼこれに匹敵する額であり、脱税のために本来支払うべき税額と大差のない金額を支払っているので、控訴人に脱税の意思はなかった。

理由

一  当裁判所も、控訴人の請求は理由がないものと判断する。

その理由は、二に付加するほか、原判決「理由」を次のとおり変更して、これを引用する。

1  原判決一五頁三行目「平井敏彦の証言、」の次に「証人西口義雄、」を加入する。

2  原判決一八頁九行目「乙第六ないし第九号証の」を削除する。

二  甲三五号証の1、2、証人平井敏彦及び証人西口義雄の各証言によれば、控訴人は平成四年一二月、松井に対し、本件不動産の売却に伴う税金の支払と松井に対する謝礼の趣旨で二八〇〇万円を渡したことが認められる。松井に全くお礼を払わない意思であったとは認められない。

しかしながら、このことから控訴人において脱税の意思がなかったとすることはできない。その主な理由は次のとおりである。

1  本件不動産譲渡に伴う長期譲渡所得金額は一億〇四五六万円余、それに対する所得税は三一三六万円余である。しかし、そのほかに都道府県民税と市町村民税で計九四一万円余の納付を要することは、地方税法の規定により明らかである。そうすると、二八〇〇万円は納付すべき税額を大きく下回る。

2  不動産の譲渡に際し金額が大きければ、所得金額に対し計三九パーセントの税の納付を要することは、このころ不動産を譲渡しようとする者にはよく知られていた事実である(当裁判所に顕著)から、控訴人もこれを知っていたと考えられる。そうすると、控訴人は松井に渡した二八〇〇万円では正当な税には足りないことを知っていた筈である。

3  控訴人の依頼により松井と接触していた平井は、本件不動産の譲渡に伴う税は計四〇〇〇万円位になるが、それを松井に対する謝礼を含めて二八〇〇万円で済むように松井に頼んだことは、証人西口義雄の証言により認められる。控訴人は、弟の平井に松井との接触を依頼していたものであって、二八〇〇万円は平井からの連絡により支出したものと推認されるから、右のような趣旨を平井から聞いていた可能性か強い。

三  そのほか、控訴人の当審における主張立証を考慮しても、原判決の判断が不当とは認められない。

四  よって、控訴人の請求は理由がないから、これと同旨の原判決は正当であり、控訴人の控訴は理由がないからこれを棄却する。

(裁判長裁判官 井関正裕 裁判官 前坂光雄 裁判官 矢田廣高)

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